前向きニュース (2012年5月13日)


『成長』

「戸田橋行くの久しぶりだな」
クルマを走らせながら、思わずつぶやいた。
去年まで見ていた今の5,6年生が、Aチームになったので、直接見る機会は減った。
それに伴い、また、低学年の人数が少ないこともあって、戸田に来るのはたぶん今年初めてだ。

ここのところ試合結果だけ見ていると、安打者が多いことにいつも感心していた。
先発全員安打みたいな試合がいくつもあったような印象がある。

去年、奇跡の会長杯優勝したあの子達が6年生。
久しぶりに見る彼らの公式戦、どんな試合ぶりなのか見るのが楽しみだ。

Bチームの試合を見たあと向かったE面の飯田杯オーシャンズ戦は、既に始まっていた。

1塁にケントがいる。
バッターは、タツマ。
次打者は横山ユウト。
一体何回なんだ?

次にショウが出て来て、ヨウヘイがいて、リョウタロウへと続いた。
吉田ユウト、マサト、タイキ。
誰が何番打者なんだかよくわからないチームだな、と感じた。

この順番、どこから始まっても、そんな打順もあるんだろうと思える。

おもしろいチームだ。

ケントは、見事なバントヒットを決めていた。
うまいもんだな。
元々器用な方だと思うけど、それに溺れて丁寧さに欠けるところがあったが、こんな丁寧なことができるようになったんだ!
ショートで献身的に動く姿にも成長を感じた。

タツマがヒットを打った。
おー、と僕は思ったが、みんなはそんなに驚かない。
以前はキャッチャーとしての守備は褒められたが、それだけだった。
それだけだって立派だけど、今は守備の良いことは当たり前に思えるくらいになった。
そしてヒットを打つことまで当たり前のようになって来た。

横山ユウトは、センターで打者を見ながらその都度守備位置を変えていた。
さすがだ。
2試合目の時、両翼を守る下級生にも指示してやれと言ったら、その通りにしていた。
変な言い方だが、僕の知る限り、これまでフリーズでオール板橋に選ばれた選手の中で最も素直な選手だと思う。
そこを見込まれたとは思わないが、その素直さから来る柔軟さが評価されたんだなと感じる。

ショウは身体が大きくなった。
見ていて頼もしさが増した。
誰が4番を打ってもおかしくないようなチームの中で、でも4番らしい風格も出て来た。
2試合目のピッチャーで、緊張して相変わらず間合いがなくなった時に、深呼吸して自分で落ち着きを取り戻していた。
そんなこともできるようになった。

ヨウヘイの打つ打球が強くなった。
随分振り込んでいるんだろうなと思うし、身体もできてきたんだろう。
暑がりのくせに長袖のアンダーシャツを着ているから、どうしたんだ?と聞いたら、いつも激しくスライディングするので、半袖だと擦りむいちゃうから長袖にしたという。
そのスタイルは前から変わらないが、ヨウヘイのそのプレーがチームを鼓舞する影響力が出てきている。

吉田ユウトが打席に立つと、ヒットを打つ気がしてきた。
そして期待に応えてくれる。
空振りの多かったユウトが、確実に球を捉えるようになった。
元々スイングは速いから、球を捉えられるようになったら強い。
1試合目の時、レフトへの打球に思わず前に出てしまい後ろに逸らした。
2試合目、同じような打球に対してちゃんと待って、しっかりキャッチした。
おー、学習効果があるじゃないか!
そんなこともきちんとできるようになった。

リョウタロウは相変わらず良い動きをしていた。
守備はもちろんだが、走塁が上手くなった。
状況を見ながら、考えて野球をやっている様子が伺える。
センスのある奴だから、それが考えて動けるようになると頼もしさが増す。

マサトはピッチング→バッティング→守備の順番で力量がバランスされていることは変わらない。
でも、バランスはそのままに全体的にレベルアップしている。
そのバランスを表すようにこのチームはマサトがピッチャーをやっている時が一番バランスが良いようだ。

タイキが9番にいるのは頼もしい。
バッティングの良さを買われて起用されているんだろうと思うが、期待に応えるようにヒットを打っている。
このチームがどこから打順が始まってもおかしくないように思えるのは、9番にタイキがいるからではないかとも思う。
おとなしいけど、何かいい存在感だ。

1試合目、代打で出たハルトが2打席目でコールドを決めるサヨナラヒットを打った。
相変わらず緊張した感じで打席に向かっていたが、1打席目に高めに手を出して凡打した経験を生かして、きちっと球を見極めた。
ハルトが打つと皆が嬉しくなる。
うちのマンションの下の広場で、強化練習後リョウタロウと2人で楽しそうにキャッチボールしている姿を見かけた。
二人の様子は、野球が好きで好きでたまらないといった雰囲気に溢れていた。
こんな奴らが活躍したら周りにいる皆が嬉しくなるのも当然だ。

皆が随分と成長した。

1試合目の快勝のあと2試合目は、大事なところで打てず、肝心なところでエラーする典型的負け試合だった。
全員のバランスで保っているこのチームは、少しそれが狂えばこうなる。

でも、この負けた2試合目。
上手くいかず、差を縮めてはまた広げられる展開の中で、どこかで切れて腐ってもおかしくなかったが、だれもその様子がなかった。
皆黙々と自分の課題をこなしながら試合に取り組んでいるような、そんな前向きさを感じた。

誰から始まってもおかしくない打順が組めるこのメンバーは、切れ目がない打順とかいう立派なものではなく、皆が小粒というような卑下したものでもなく、個々人が上手くなりたいという思いで繋がる強さを秘めたチームのようだ。
勝利はその結果としてもたらされる。

Aチームは、春は強かったけど、秋になると強さがなくなってしまうことがある。
このチームは秋まで成長し続けられる、そんな予感を抱きながら、夕暮れの戸田橋をあとにした。

今年もまたこれからたくさんここに来るのだろう。
皆の成長を楽しむために。

池谷