前向きニュース (2010年11月23日)


『TARA REBA』

試合後のミーティングを終えて、おにぎりを食べながら、見るとはなしにグランドで行なわれている試合を小豆沢球場のスタンドから眺めていた。
エンジ色のユニフォームがグランドのアンツーカーの色と重なり、その向こうに見える紅葉とも重なって、グラデーションを描いていた。
ふと、その視界の右下に、さっきまで試合をしていた相手チームの監督の嬉しそうな顔が入ってきた。
深いため息が出た。

監督をやっていると、勝って当たり前と思える試合、負けてもサバサバしていられる試合など納得できる試合もある。
それは、試合内容と共にこちらの試合に向かう姿勢にもよる。
今日は勝ちたいと思った。こんな試合で負けると凹む。
監督だから淡々と振る舞うけど、悔しくて、悔しくて、もう一度やり直したくなる。

「たら」「れば」を言ったって無駄なことは十分わかっているけど、でも、悔しい。
それでも、「たら」「れば」は課題を見つける呪文だ。
あそこでアウトを取れたら、あの打球が少しズレていれば、あんなに緊張しなければ。
どこかで流れを変えるベンチの采配はできなかっただろうか?
それが悔しい。

試合経過が、頭の中で蘇る。
・・・・
いつも通り先攻で迎えた1回表、ここまで2試合、チームで唯一のノーヒットだったリョウタロウが左中間を抜ける見事なホームランで先制した。

とても嬉しかったけれど、それだけで終わってしまったことの方が気になった。

1回裏、先頭打者のショート後方へのフライを捕れずにヒットに。
その後、直前まで練習していた1-2塁間のランダウンプレーがうまくいかず、ランナーを生かしてしまった。

緊張しているのか、選手の動きが硬い。

ここまでの試合、打球を左方向には一切打たれていないマサトの球をしっかり振り抜いて、打球がセンターから左方向に飛ぶ。

これまで見たことのない展開に選手達は戸惑っていた。
ただ、きちんと守ればアウトがとれるような打球ではある。
それなのに、捕れない、送球がちゃんとできない、慌てる。
緊張が悪循環を起こしていた。
いつもの笑顔がなくなる内野手。
ベンチにも緊張感が走る。
そんな中、ベンチで応援するタイセイ、ケンタ、ユウスケ、リョウヘイは大きな声を出して応援していた。
みんな試合に出たい中、ベンチの応援の大切さをこの2試合たくさん教えられて、今日は自ら声を揃えて応援し始めた。

試合に出られないことに不満を漏らしていた奴らが、自分は何をしなきゃいけないかをわかり始め、ベンチで自分の役割を果たしているのは、大きな成長だ。

結局1回裏に7点取られた。
しかし、Dチームで6点差なんて十分ひっくり返せる。
ベンチに戻ってきた選手達もまだ行けるという感じだった。
これもまた経験を重ねた頼もしさ。
逆転できると信じていた。
その自信が形に表れ、ヒットと四球で1アウト満塁。
打席はトモヤ。
この大会何かと目立つところでトモヤが登場する。
ラッキーボーイという感じだ。
期待した。
高めのボールをいつもの振り遅れ気味のスイングで痛打。
いい当たり、一瞬そこにいる皆が息を呑んだ。
しかし、打球はセカンド正面のライナー。
飛び出した1塁ランナーが戻れず、まさかのダブルプレー。
あちゃー、アンラッキーボーイだった。

しかし、それでもまだチャンスはある。
ただ、ここからは時間との戦いでもある。
既に35分経過、残された攻撃はあと2回か。

2回裏にも1点取られた。
それでもベンチに戻ってきた選手は、まだ逆転するという意思を持って、力強い顔をしていた。

その通り、またも1アウト2-3塁のチャンス。
しかし、ここでもあと1本が出ない。

既に55分経過。
次の攻撃までか。
でも、気をつけないとコールドになってしまう。
あと3点取られちゃダメだ。

悪い予感が当たるものだ。
2点取られてランナー3塁。
ここでマサトのワンバウンドの投球をリョウタロウが捕れず、その球が変な方向に跳ねた。
3塁ランナー生還。

ゲームセット。

相手のベンチの奥で抱き合って喜ぶ父兄の姿が見えた。
子供達は何が起きたかよくわからないまま整列して挨拶していた。

スタンドでの反省会。
子供達は、口々に「緊張したー」と言っている。
負けた悔しさよりも終わった安堵の方が大きいのかも知れない。
「緊張」はとても大事な経験だ。
こういう場面を何度も重ねることが成長につながる。
そんなことを思いながら振り返ると、グランドの向こうの紅葉が鮮やかだった。
思えば、この大会の最初の試合もこの小豆沢球場だった。
その時まだ緑色だった木々が、今はすっかりオレンジや黄色に変わっている。

あの緑色の中の試合と今と、たった20日くらいの時の中で、子供達は確実に成長したと思う。

ケンスケは随分頼もしくなった。
打席に立つと1球、1球バッターボックスを外して、ちゃんと気持ちを入れ替えることができるようになった。

リョウタロウは、スローイングが良くなった。
投球練習の後の送球を見たときの相手チームの表情がそれを物語っている。

シバは、考えながら打席に立っている様子がうかがえる。
立つ位置を変えてみたり、カットしてみたり、とても2年生とは思えない態度で打席に立っている。

タイキは4番らしくなってきた。
4番に座って3試合目、堂々とした感じで打席入っている。

マサトは悪いときに自分なりに修正する術を覚えてきた。
より安定感が増したと思う。

ハルトは、試合ごとに課題を吸収している。
四球で塁に出た時、少し考えて、バットをベンチの方に投げてて来た。
最初の試合、塁に出たのにちょっとパニクって、ベンチの方に戻ってきてしまった。
そのことで注意されたことを思い出すように意識してバットを投げていた。

ショウは悔しい三振をした。
四死球続きの過去2試合と違って、今日は打ちに行ったのに打てなかった。
試合後のミーティングを聞いているとちゃんと自分で考えていることがわかる。
食べるスピードと同じくらい消化に時間がかかるだろうけど、きっと吸収して行くと思わせてくれる。

リュウセイは、構えが良くなった。
そろそろ打撃開眼しそうな雰囲気を醸し出している。
トモヤは、ミスを引きづらなくなってきた。
守備機会が多いせいもあって、毎試合ミスをする。
以前のトモヤならそのまま落ち込んで行ってしまうけど、この3試合、そうならず、顔を上げて前を向き、声を出すことができるようになってきた。
試合後一番泣いていたけど、それを糧にできる強さを身に付けつつあるようだ。
反省会の冒頭、子供達に尋ねた。
「さっき何故途中で試合が終わったかわかるか?」
「時間切れ」
「たくさん点が入ったから」
何人かが答えた。
「これはな、コールドゲームと言って、3回で10点差がついてしまったから途中で終わったんだ」
「もし、最後の1点がなければ、次にもう1回攻撃できたんだ」
「もう1回攻撃したら、もしかしたら逆転できたかも知れない」
「どの1点でも同じことだけど、あの1点がなかったら勝てたかも知れないんだぞ」
子供達は真剣にその話を聞いていた。
「1点って大切だよな」
子供達が皆頷いた。

「たら」「れば」は言ってもしょうがない。
でも、「たら、れば」は教えてくれる。
次はどうすれば「たら、れば」を言わなくて済むかを。

3試合、いい経験だった。
胸を張ろう!準優勝なんだから。

池谷